
プロアクの草分け
ここ数年、イギリスのケンブリッジであるとかインドのいくつかの都市でもかなりのベンチャーが起こってきています。
◇Aアジアでは香港とかシンガポール、台湾で、いろいろな動きが出てきています。
科学技術的なインフラストラクチャーが十分にあるわけではなくて、一点突破みたいなものばかりですが、そこで日本の役割はどうなるかということも話しておきたいですね。
◇Kこの5年が日本には非常にクリティカルなときになると思いますね。
戦後50年は日米の基軸、冷戦の構造で、アメリカの援助を受けて経済大国になった。
だから、国内的ないろいろな問題を抱えたままで経済発展でごまかしてきたけれども、バブル経済がはじけ、経済が不調になってきたところで従来型の「55年体制」の問題がいろいろ露呈してきた。
アジアの人から見ると、日本はアジアのリーダーだと思っていたわけです。
思いたかったわけです。
アジアの経済は突然だめになりはしましたが、人口は世界の60%を占めていますから、マーケットからいっても製造業はいずれまたすごい力になってきます。
特に中国は数が多いから。
アジアにおける日本のプレゼンスはいったい何なのかと考えると、アジアがリーダーになっていくときに、日本が先頭集団に入っているかどうかということが大事なんです。
でも、いまアジアのリーダーはアメリカナイズされた考え方で動いています。
アメリカで教育を受けた人、アメリカで訓練を受けた人たちがリーダーとしてどんどん抜擢され、リーダーはアメリカ文化支持者になっているでしょう。
地方はまだ違いますが。
◇Nもう1つ間題なのは、湘南でも郊外地に技能集団、支援部隊がないといけない。
それを大田区など京浜地帯は持っている。
これも大きいファクターです。
◇Yそれがまた中国人のパワーにマッチするんですよね、中国人固有のカルチャーと。
◇Kそうなんです。
非常に個人主義的ですから。
対して日本のユニークな文化は、アジアにおいても基本的には異質で、受け入れられにくいのではという気がするんです。
もちろん、西欧社会にとっては日本の習慣は非常に異質です。
アジア諸国のほうが日本よりは個人主義的だから、まだ受け入れやすい。
このような状況の中で、いくら日本の制度がいいんだといっても、アジアでさえ受け入れられなくなる。
欧米での「日本異質論」はかなり定着していますからね。
グローバルなスタンダードで議論ができて、パワーがある人を、いかに早く「政」「官」「産」「財」ばかりでなく、「学」にもつくるかということでしょうね。
◇Yそもそも日本のシステムは崩壊しないというか、崩したくても崩れないことが続いている。
日本のよさがどこかにあるということになるかと思うんですが、科学の分野では日本はアジアでは揺るぎない地位を確立している。
そういった意味では、科学分野でのリーダーシップを日本は取れるはずなんです。
◇Kそういうふうに思いたいです。
しかし、これまでのシステムではねえ。
◇Yどうしたらいいかですね。
◇K日本のユニークな明治維新、戦後50年のシステムはおそらくダメになる。
科学のシステムもアングロ・アメリカンとは互換性はないと思います。
だから、いかにそれを早く、革命的変化ではなくても、早急に変えるのか。
◇Nまったく変えてしまうか、それとも一段階飛躍させるか、どちらかですね。
◇Aたとえばシンガポールの科学者は屈折した考え方を持っています。
ヨーロッパ文化の影響を受けてはいるが、自分たちは、やはりアジア人なのだと言いたいんです。
ただアジアとしてのユニークさが、日本の支配下にあるユニークさではいやなのです。
しかし、シンガポールだけではヨーロッパ文化になってしまいます。
◇Kシンガポールは明らかにアメリカと直結している。
◇Aしかし、やはりアメリカ文化やヨーロッパ文化は、自分たちと違う面があることはわかっています。
でも、アジアが今のような日本だけに引っ張られるのは困ると思っているんです。
◇K彼らが嫌っている過去のジャパンとこれからの日本がどれぐらい違うかを、かなり明らかなかたちで見せないと危ないという気がします。
いまはコンピュータでコミュニケーションがリアルタイムでなされていますし、10時間もあれば飛行機で世界中かなりのところまで行けるじゃないですか。
そういう世の中では、たとえ一時的に評判をとっても、その質や内容はすぐに世界中に知られてしまいます。
過去20〜30年のアジアの歴史を見ると、経済力という点では日本がきわめて支配的だったのですが、これから地球が狭くなり世界中が1つになってしまうと、はたして日本の支配力を維持できるかどうか、非常に疑問です。
いま中国はどんどん力を付けている。
シンガポールもそうだし、経済的に一時は不調になっても、いずれは韓国もあなどりがたしとなると、「日本なにするものぞ」ということになるでしょうね。
コミュニケーションと交通システムが進んでしまったので、本当の価値がないと相手にされなくなります。
逆にジャパン・バッシングならぬジャパン・パッシング、日本はパスよ、ということになります。
それがいちばん恐ろしいと思うんです。
◇N彼らが力を付ければ付けるほどね。
◇Aただ、サイエンスに対する考え方として、日本の基礎科学を守り育てる課題があります。
日本は実利的だといわれていますが、その一方で、基礎科学を大切にする姿勢を文部省をはじめ日本の行政も国民も持っています。
マレーシアやシンガポールではそうではない。
彼らは基礎科学の重要性を強調しますが、産業を起こす上で基礎科学は大事だという認識に立っています。
それはメイクマネーです。
日本の場合には、直接メイクマネーには行かなくても、基礎科学自体に価値があると考える。
これだけ科学に対する態度が違っている。
それだけでいいのかという議論の余地はありますが。
◇Nアメリカという国は、産業を育てるというメイクインダストリーを通して、メイクマネーを成し遂げました。
しかし日本は国家が率先してやったから違うんです。
僕が1つ気になるのは、15年ぐらい前からシンガポールはバイオ・インダストリーに非常に興味を持って、いろいろな会社の人を呼んで何度もシンポジウムをしたんですが、あれだけ熱心にやっているのに、シンガポールでインダストリーが起こったなんて聞いたことがないことです。
◇Kだってシンガポールは人口が300万人しかいないんですから、インフラストラクチャーは無理です。
マンパワーがない。
◇Nそこのところがからんでいるのか、いくらメイクマネーだ、メイクインダストリーだと言っても、成果が出てこない。
15年ぐらい前から相当金を使っているんです。
大学の人たちは非常に熱心なんですが……。
そこにいちばん疑問が湧くんです。
◇Kこれからは「国とは何か」というのが非常に問題になってくると思う。
いまはシンガポール、マレーシア、台湾と、それぞれ独立国家かもしれませんが、情報とかインターネットまで考えると「国境」は実質的に消えていき、価値観の違いが少なくなってくるから、結局、文化圏での独立につながっていくでしょう。
シンガポールはきわめてプロアメリカン(親アメリカ的)だと思いますが、根本はチャイニーズ、80%が中国人ですからね。